★ブルース界の巨人B.B.キング(B. B. King、本名Riley B.King:1925年9月16日生まれ)、2015年5月14日逝去。享年89歳。B.B.キングの生まれた1925年は日本では大正14年。B.B.より20歳年下、1945年生まれのエリック・クラプトンとB.B.が2000年に共演した際のプロモを今回はオマケに貼っておきます。合掌
★今回は自動車カタログ棚シリーズの第265回として戦後1950年代のいすゞTXトラックをピックアップします。
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★日本のボンネットバスの代表格がいすゞBXであるようにボンネットトラックと言えば、シェア50%を超えた登録台数の多さと柴犬を思わせる温もりのあるフロントマスクなどから日本人に最も郷愁を感じさせるのは1950年代のいすゞTXだろう。
1960年代に入ると荷室有効スペースの広いキャブオーバー型トラックに押されボンネットトラックの需要が限定される時代となっていったのに対し、1950年代は未だボンネット・トラック黄金時代であった。その時代、ボンネットバスBXと同様に圧倒的な市場シェアを誇り日本中で見られたボンネット・トラックの代表車種がいすゞTXであったといえる。
★1932年(昭和7年)3月、国産自動車のレベルアップを図るため、国が音頭を取り商工省標準型自動車の製造が開始された。
まず、石川島自動車製造所、東京瓦斯電気工業、ダット自動車製造の3社共同によるTX40型トラック(WB4m)、TX35型トラック(WB3.5m)、BX40型バス(WB4m)、BX45型バス(WB4.5m)の試作車が完成し、1934年(昭和9年)よりいすゞ川崎工場(現在は閉鎖されヨドバシカメラに敷地が譲渡されている)にて生産された。1937年(昭和12年)7月の盧溝橋事件を発端とする日中戦争が始まるとTX型トラックの大半は「97式自動貨車」の名称で大陸に渡り軍用に供された。なお、TXとBXの型式名称はT=Truck、B=Bus、X=X型エンジン搭載を示す。
終戦の年、1945年(昭和20年)の10月、GHQ(連合国最高司令官総司令部)より物資輸送のためのトラックに限り国内での自動車生産が許可されると、いすゞ自動車の前身であるヂーゼル自動車工業は戦時中に試作していた軍用トラックを民需用として改良した5トン積みTX80型トラックの生産を開始した。そして、翌1946年(昭和21年)にディーゼルエンジンDA43型85psを搭載したTX61型トラックが追加されると爆発的に販売台数を伸ばした。その後、いすゞTXは1960年代にかけて国内の5~6トン級ボンネット・トラック市場の王座を占めることとなる。
★私自身は世代的に1950年代までのいすゞTX型ボンネット・トラックのリアルタイムの記憶は殆どなく、1959年(昭和34年)10月のモデルチェンジ以降、とりわけ横4灯となった1964年式以降のモデルが最も鮮明に記憶に残ります。
今回は戦後1945年(昭和20年)暮れデビューのTX80から1959年(昭和34年)10月にビッグ・マイナーチェンジを受ける前までのTX型ボンネットトラックのカタログを駆け足でご紹介します。恐らく毎年更新されたであろうTXの各種カタログ(TX総合・ディーゼル専用・ガソリン専用・ダンプ専用・消防車専用等)のうち手元にあり御紹介できるのは極く極く一部ですが、とりわけ1950年代後半のカタログにはイラストが秀逸かつ魅力的なものが多数存在します。カタログ蒐集の際の便宜および資料性の観点から今回もカタログの顔である表紙の画像を中心に掲載することとします。発行時期については推定も含まれますので誤り等がありましたら御指摘ください。
【関連の過去記事】
1)1939年いすゞTXトラック/BXバス・・・・・第239回記事
2)1950~1960年代のいすゞ消防車・・・・・第248回記事
3)1960年いすゞTXボンネットトラック・・・・・第17回記事
4)1950年代のいすゞBXボンネットバス・・・・・第246回記事
【主要スペック】 1958年いすゞTX352ディーゼルトラック (1958 ISUZU Diesel Truck Typ352)
全長7435㎜・全幅2270㎜・全高2432㎜・ホイールベース4300㎜・荷台長4570㎜・車重4402kg・FR・DA120型6126cc水冷6気筒4サイクル直列予燃焼式ディーゼルエンジン・最高出力120ps/2600rpm・最大トルク39m-kg/1400rpm・最大積載量6000kg・変速機5速MT・最小回転半径8500㎜・最高速度103km/h(減速比5.57)・シャシー開始番号:58-TX352-233342・東京渡し車両本体価格185万7000円
●1958~1959年いすゞTX341型トラック 実働写真
1962年(昭和37年)1月、築地「東京中央卸売市場」にて。撮影:金田吉樹氏。月刊「モータービークル」1962年2月号より。嵩上げした幌の荷台高は4mを超えていそうだ。栃木~東京間の日光街道を往復していたと思われる栃木ナンバーのTX。
●1957年いすゞTX 国鉄小荷物運搬専用車 廃車写真
1975年(昭和50年)5月、日本国有鉄道・新宿営業所にて。ナンバーを外され終焉の時を迎えたTX。撮影は自動車史研究の第一人者であった五十嵐平達氏の愛弟子で現在はバス研究の第一人者としてぽると出版代表も務める和田由貴夫氏(1983年10月25日九段書房発行モータービークル臨時増刊「日本のトラック1984」に掲載されたもの)。和田氏は五十嵐氏が1950年代に月刊誌モーターマガジンに連載された「私のペンカメラノート」に触発され五十嵐氏より直々に譲り受けた35㎜カメラで記録写真を撮り始めたという。1975年というと高1だった私も観音開きの初代クラウンなどの古い国産乗用車にカメラを向け始めていたが、高校の帰りに悪友とよく寄り道をした新宿に車齢18年のTXが棲息していたとは思いもしなかった。
●広報誌「いすゞニュース」1957年10月号 表紙
山梨ナンバー、荷台に「甲州ブドー」「山梨県経済連」の表示を付けたTX。未だ未舗装の甲州街道(国道20号)の勝沼~東京間を走った車両と思われる。
●1946年12月 いすゞTX80トラック/BX80バス カタログ (縦24.5×横21cm・4つ折8面)
いすゞBXバスの記事の際にも表紙およびBX80型バスの箇所のみ紹介済のカタログだがメインは戦前の4屯積みTX40型トラックから5屯積みとなったTX80型トラック。WB4m・DG32型4390cc85馬力ガソリンエンジンを搭載した初の戦後型。
【中面から】
戦前のTX40型との車体比較図
●1950年 いすゞTXトラック 英文カタログ (A4判・2つ折)
収載型式はWB4mのTX61/63(左ハンドル)ディーゼルおよびTX80/83(左ハンドル)ガソリン車、WB3mのTX30ガソリン車。バンパー上に3本並んだグリル下部のメッキバーはピニンファリーナ・デザインのアルファロメオにヒントを得たデザインと言われる。
●1952年 いすゞTXトラック 総合カタログ (A4判・8頁)
収載型式はTX80(ガソリン)・TX61(ディーゼル)・TX30(ガソリンWB3m)の3種。
【中頁から】
シャシー
ダブルキャブ、タンク付消防車、ダンプ。TXのダブルキャブは非常に珍しい。
散水車、ミキサー車、国鉄に大量納入された小荷物運搬車
荷台・運転席
90馬力エンジン2種(DG32型ガソリンおよびDA45型ディーゼル)
裏面: スペック
●1952年11月 いすゞダンプカー専用カタログ (A4判・表裏1枚)
収載型式はTX80D・TX61D・TW21Dほか。型式末尾の「D」はDumpを示す。
●1954年2月 いすゞTXトラック 総合カタログ (A4判・2つ折4面)
収載型式はTX80(ガソリン)・TX61(ディーゼル)・TX30(ガソリンWB3m)の3種。前年までガソリン・ディーゼル共に90馬力だった出力がガソリン105馬力・ディーゼル100馬力に上がり、外観上はフロントグリル上部のスリットが前年までの8穴が4穴に、ボンネットサイドのスリットは4穴が2穴に減り繊細さが消えて力強くシンプルな印象となった。基本的には1959年型までこのデザインが踏襲された。
表紙・裏表紙が一続きの写真
●1956年9月 いすゞダンプトラック 専用カタログ (B5判・3つ折6面)
収載型式はTX141DA・TX142DA・TS141DA(四駆)・TW141DA(六駆)。1956年よりTXに続く型式番号が3桁となった。3桁の数字には次のような意味がある。1の位はタイヤサイズ(1は標準タイヤ、2は上級タイヤ)、10の位はホイールベース(3は3m級、4は4m級、5は5m級)、100の位は搭載エンジン(1はディーゼルDA110型、2はガソリンGA110型、3はディーゼルDA120型)を示す。例外もあるが原則的としては同時期のいすゞ製バスの型式付番も共通。
●1957年1月 いすゞTXトラック 総合カタログ (A4判・2つ折4面)
収載型式はTX151・TX141・TX251・TX241・TX231・TX232(後輪ダブル)の6型式。
●1957年3月 いすゞTXディーゼルトラック専用カタログ (A4判・2つ折4面)
表紙の印字は単に「いすゞトラック」だが、ガソリン車の掲載はなく収載型式は5.5屯積みのTX155・TX145と5屯積みのTX151・TX141のディーゼル4車種。材木を積んだTXの表紙画が秀逸なカタログ。
●1957年10月 1958年型いすゞTXトラック 総合カタログ (A4判・12頁)
収載型式はディーゼルTX352・TX342・TX351・TX341とガソリンTX251・TX241・TX231の7型式。ディーゼル車はDA120型エンジンに統一され、型式番号の100の位から1が消え3のみとなった。外観上はフロントフェンダーサイドに細いクロームメッキの飾りが追加された。新型式TX352およびTX342は6屯積みとなり、機構的にはオーバードライブ付5速シンクロおよび4速シンクロが採用された。
【中頁から】
58年型の改造点(改良点)
DA120型ディーゼルエンジン
オーバードライブ付5速シンクロおよび4速シンクロメッシュトランスミッション
●1958年 6トン積いすゞディーゼルトラック 専用カタログ (A4判・4つ折8面)
収載型式は1958年型として新たに追加された6屯積みのTX352およびTX342だが裏面の諸元欄にはガソリン車を含むTX全車のスペックが掲載されている。
●1958年 いすゞTXディーゼルトラック 専用カタログ (A4判・4つ折8面)
収載型式は6屯積みのTX352・TX342および5屯積みのTX351・TX341の4型式。造船所をバックにTXを写した、この時代では珍しいカラー写真の表紙。
●1958年4月 いすゞスチールキャブ 専用カタログ (A4判・2つ折4面)
いすゞトラックにはオールスチール構造のプレス熔接製のキャブの架装が効果的といすゞ製鋼製キャブの使用を奨めた珍しいカタログ。シャシーだけで裸売りもされた時代故の産物か。
●1958年8月 いすゞTXディーゼルトラック 専用カタログ (A4判・4つ折8面)
収載型式は6屯積みのTX352・TX342および5屯積みのTX351・TX341の4型式。上掲の造船所の表紙のものと中面は同じカタログ。
●1958年 いすゞダンプトラック専用カタログ (B5判・3つ折6面)
収載型式はTX342D・TX341D・TS341D(四駆)・TS342D(四駆)・TW341D(六駆)の5型式。
●1958年11月 いすゞTXディーゼルトラック 専用カタログ (A4判・16頁)
旧き良き50年代最後の1959年型カタログ。ビッグマイナーを翌年に控えた最終型は気合いの入った分厚いカタログとなった。収載型式は6屯積みのTX352・TX342および5屯積みのTX351・TX341の4型式。
【中頁から】
59年型の印字
TX342型
TX351型
TX341型
TX352型
シャシー
センターメーターの運転席
裏面: スペック
●1958年11月 いすゞTXガソリントラック 専用カタログ (A4判・12頁)
これも旧き良き50年代最後の1959年型カタログ。ガソリン車は受注生産に近い状況にまで生産数が落ちていたにも関わらずカタログは分厚く表紙画も魅力的。収載型式はGD150型OHV5654cc145馬力ガソリンエンジンを搭載した新型6屯積みTX452(WB4.3m)およびTX442(WB4m)の2型式。
【中頁から】
DG150型145馬力ガソリンエンジン
TX452型
裏面: スペック
●1958年11月 いすゞダンプトラック 専用カタログ (A4判・4つ折8面)
上掲2部と同じ旧き良き50年代最後の1959年型カタログ。収載型式はTX342D・TX341D・TS341D(四駆)・TS342D(四駆)・TW341D(六駆)の5型式。これも表紙画が秀逸。
【中面から】
★オマケ(その1): 絵本に描かれた1958年型いすゞTXトラック
いすゞのえほん「じどうしゃ」(B5判・1957年10月25日いすゞ自動車発行)より。絵:藤枝陸郎 画伯。ディーラーに販促品として置かれていたと思われる非売品の絵本。1950年代後半のいすゞは毎年この手の絵本を発行していた。
★オマケ(その2): 絵本に描かれた1958年型いすゞTXトラック
小学館のベビー絵本「じどうしゃ」(B5判)より。絵:池田献児 画伯。いすゞTXの消防車が描かれた絵本は沢山発行されているが、ノーマルのTXが描かれた絵本は少なく漸く見つけた1枚。オマケ1同様にいすゞのカタログカラーの車両が描かれている。
★オマケ(その3): とみやま商事(現タカラトミー) 1/66スケール 1950年代いすゞTX17m級油圧式梯子消防車 プラモデル
1962年頃発売。当時定価:全国130円。全長10.5cm。1950年代のTXのリアルタイムの立体造形物は木製ソリッドキットを除けばこれのみ?ノンスケールが主流だった時代にきちんとスケール表示がされているのがトミーらしい。近年になって、いすゞ自動車がノベルティとしてアンチモニー製の置物、津川洋行が日本型Nスケール(1/150)のホワイトメタルモデルを出している。とみやま商事(富山)が1960年代前半に1960年式以降の新TXでなく、あえて1950年代の旧いTXをモデル化した理由は謎。プラモデルとしての製品企画が1959年以前に始まったものだったか、あるいは製品化に当たって身近にあった取材車両がたまたま旧型のTXだったといった理由だろうか。半世紀以上を経た日本のプラモデル黎明期の製品。同じトミー製品である高額プレミアモデルのトミカ30‐1番の香港製ギャランGTOよりこのプラモの方が遥かに現存するものは少ない。但し人気がないためGTOのような高額プレミアは付かない。未組立で現存する数は一桁とも言われるが、このプラモを製作用・保存用・予備と3個持っているというコレクターも存在するので少なくとも二桁以上の数が現存するだろう。
箱絵のアップ
組立説明書
★オマケ(その4): 1958年ニュース映画「神風タクシーと神風トラック」
後半2:45位からの神風トラック編にいすゞTXが登場。
オマケ(その5): Riding With The King (Eric Clapton & B.B. King) 2000年
追悼B.B.キング。エリック55歳、BBキング74歳の頃の作品。エリックがBBを乗せて運転する漆黒の縦目コンバーチブルは1966年キャデラック・エルドラド。
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★1950年代のいすゞTXトラック 郷愁のTX ~ 自動車カタログ棚から 265
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