★台風21号の影響でざんざん降りの東京です。明日10月23日(月)中には日本列島を通過しそうですが、大きな災害などなければいいですよね。台風が過ぎた明日の東京は25度まで気温が上がる予報ですので寒暖の差にも要注意ですね。
★さて、今回は「自動車カタログ棚から」シリーズ第363回記事として、こんなに古い時代の自動車には興味がないという人が多いとは思いますが、いすゞ自動車のルーツである戦前1920年代国産ウーズレーの非常に珍しいカタログをご紹介しますNE☆
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★1853年(嘉永6年)、江戸幕府が水戸藩に命じ江戸隅田川河口の石川島(現在の東京都中央区佃二丁目)に造船所を創業し西洋式軍艦「旭日丸」「千代田形」などの建造を始めたのが、現在のIHIやいすゞ自動車のルーツである。
1893年(明治26年)、東京石川島造船所株式会社に組織/商号変更した。1916年(大正5年)から1918年(大正7年)にかけての第一次世界大戦における船舶特需により巨万の利を得たことから自動車製造にも投資することを決めた。しかし、機械製造の経験はあってもいきなり自動車は造れなかったため外国メーカーとの提携の道を選ぶこととした。1910年代の東京ではフィアットとウーズレー(WOLSELEY)が最も売れていたことから、両社に提携条件について打診し、フィアット100万円、ウーズレー80万円という見積もりが出たことから安価なウーズレーとの提携を結んだ。80万円は10年賦で年英貨8000ポンドずつ毎年返済するというものであった(現在の貨幣価値に換算すると大雑把に現在は1000倍の金額)。
★東京市深川区富川町に石川島造船所自動車工場が新設され、1920年(大正9年)よりウーズレーA9型乗用車の組立てが開始された。
木型は英国、工作機械類は米国から調達し、ウーズレー社からは技術指導のためペニオール技師が1年契約で日本に派遣されてきたが、精密機械工業の技術レベルの低かった当時の日本では組立ては困難を極め、A9型の1号車の完成は1922年(大正11年)の暮れも押し迫った12月31日のことであった。ところが、1台当たりの製造原価は15000~16000円となり、当時、梁瀬が完成車として輸入していた米車ビュイックが6000~7000円で売られていたため、石川島製のウーズレーは売れる道理もなかった。石川島造船所ではとても太刀打ち出来ないと判断しA9型乗用車生産の中止を決断した。
★大正10年代、陸軍省は軍用自動車補助法による保護自動車への補助金として毎年1000万円もの予算を大蔵省から貰っていた。石川島はこの補助金の出る保護自動車としての認定を受ければ安価に販売できることを考え、ウーズレー社とCP型トラックの製造販売契約を結んだ。
ウーズレー社からCP型の実車サンプルや図面が届いたのが1923年(大正12年)3月のことであった。ところが、この年の9月1日に関東大震災が起こり深川区富川町の石川島造船所自動車工場は甚大な被害を受け、A9型乗用車の売れ残り50台とサンプルのCP型トラック1台が全て失われた。幸いにして青バスにサンプルとして貸してあった1台が無事生き残っていたことから、この1台により何とか生産に向けて再出発をした。翌1924年(大正13年)3月20日に漸く日本製のウーズレーCP型トラック2台が完成し陸軍省の保護自動車認定試験を受ける運びとなった。試験はまず代々木練兵場での定地検査、7日間の北関東地域への路上運行試験を経て、最後に赤坂の江戸見坂で登坂テストを受け、2台共に試験検定証書が下付された。ウーズレーとの提携契約を解除した1927年(昭和2年)までにCP型は240台以上が生産された。
【主要スペック】 1924年ウーズレーCP型トラック (1924 Wolseley Type.CP Truck)
全長5410㎜・全幅1830㎜・全高2250㎜・ホイールベース3660㎜・シャシー重量1672kg・FR・水冷直列4気筒SV3100cc・最高出力26hp・変速機4速MT・乗車定員2名・最大積載量1500kg・燃料タンク容量75ℓ・最高速度45km/h・販売価格7500円
●1925年 東京石川島造船所自動車工場 ウーズレーCP型 総合カタログ (縦24.5×横18.5cm・日本語3つ折6面)
非常に珍しい石川島製ウーズレーCP型のカタログ。実際に使用されている車両の写真が多数掲載されていることから、生産を開始した1924年ではなく1925年乃至1926年の発行と推定。CP型よりホイールベースの短いCG型も掲載されています。石川島では早くからクレーン(起重機)を製作していただけに、クレーン車が特に力を入れて紹介されています。カタログに印字されている内容も貴重な国産車史料と思われることから、画像だけでなく文字部分も出来るだけ記載することとします。ボデーに関する説明文の横に「御申込み次第、型録呈上」との印字があることから、ボデーメーカー発行(脇田自動車と汽車製造の2社)のCP型(及びCG型)シャシーに架装した車体のカタログも発行されているものと思われます。
秀逸な表紙画。表裏両面が表紙にも見える。バスが描かれた面のみ東京石川島造船所自動車工場の印字。
◎トラックとバスシャシーは最早や外国品を輸入する必要はありません!!
我社が毎年数百輌製作して居りますウーズレー型自動車は東京は元より各地に活動して居りますが、その成績は寧ろ外国車を凌駕する優秀なことは一般御使用者に依って証明されて居ります。然しまだまだ外国車の輸入数の方が我社の製作台数より遥かに多いのは舶来という言葉に惑わされている結果で決して国産品が劣っている証拠とはなりません。一般に国産車が多数使用されれば自然その知識も発達して、我国の工業も発達し、年々多額の金を外国に流出する事も防御されて所謂自給自足の路も開け価格も低下して来なければなりません。我社の状態を観ましても創業時代からみますと現今使用材料の如きも殆ど内地製品で、電気品とその他数種の外国部品を使用するのみで立派に製作出来るのであります。価格も既に2,3回の値下げを断行致しまして、研究も毎日のように続けて行っております。故に1輌でも多く皆様がウーズレー型自動車を御使用下さいますならば、それだけ国産品の奨励となって富国の基となり国防の礎となるのであります。何故かと申しますに、ウーズレー型自動車は我国陸軍保護自動車の資格を持って居りまして、政府はウーズレー型自動車を民間で使用する人に対しては多額の補助金を下附せられて使用車の保護をせられる規定があります。
◎ボデーは如何様にも御相談に応じられます!!
車室の製作は東京市内で最も信用あり又経験ある我社の特約、脇田自動車 車室工場及び汽車製造株式会社に命じて、御要求に応じ新たな設計も製作もし、値段も出来るだけ経済的な高級車室を製作致させます。
◎ウーズレー型保護自動車の特徴!!
1.陸軍保護自動車である故に機能完全で耐久力に富む。
1.保護自動車には多額の補助金を下附せらるる特典がある。
1.保護期間は5ヶ年の長期に亘る。
1.瓦斯倫(ガソリン)及び滑油類(オイル)の消費量少なく経済なる点。
1.工作方法厳重で狭範式リミットゲージ・システムを採用せり。
1.故に同種の車輛に対しては完全に部品の交換が出来る。
1.部品の貯蔵豊富で迅速に且つ価格低廉な事。
1.国産奨励を実行しつつ国防の充実を計り得る事。
1.車体の設計自由でその応用範囲広き事。
(株)東京石川島造船所自動車工場の住所は東京市京橋区新佃西町3の5
・ウーズレーCP型18人乗り乗合自動車「東京市電気局」
シティーバス(市街乗合)として乗心地よく経営上の利益多大な陸軍己種保護特殊自動車で東京市電気局、大阪市電及び東京乗合自動車に納入し好成績を挙げて居ります。
・ウーズレーCP型20人乗り乗合自動車
シティーバスのみならずパーラーカー(遊覧自動車=観光バス)等にも非常に有利で甲府市山梨開発協会では収容力も大きく己種保護自動車の補助金とに依って多大の効果を収めて居られます。
・ウーズレーCP型1屯半保護自動車 「東京市電気局」
東京市電気局の「架線修理自動車」は従来外国車を使用せられて居たのが今般我社製作丙種保護自動車を採用せられ、櫓昇降用のホイストも三菱製を応用した国産車で益々この種の応用範囲を広めて来ました。
・ウーズレーCG型14人乗り乗合自動車
市外地及び地方新開地方面には成るべく小型で収容力の大きい軽快な高級車を要するので玉川電気、伊那電鉄、横須賀等に採用せられて外国車に優る成績を挙げて居ります。保護自動車の種類は戉種に属して居ります。
・ウーズレーCP型1屯半起重機自動車(クレーン車)
我社の起重機製作は既に20有余年の歴史と経験を以て、これを自動車に応用した我国最初の試みであります。大蔵省、海軍省に数輌上納致しましたが外国製品に優る好成績を挙げて居ります。
余程自信があったのか、このクレーン車のみスペックが記載されている。
・ウーズレーCP型重油輸送自動車「日本石油タンクローリー」
日本石油株式会社の御用命を蒙って製作した車で拾石の油類を輸送する事が出来て特殊保温装置を施してあります。車体が丙種の保護を受けて居ります。
・ウーズレーCG型1屯貨物自動車「汐留駅運送(株)」
鉄道荷物の小口運送等には是非必要な車で汐留駅運送株式会社では我社の1屯半車と共に10数輌一時に御採用になり、所謂戸口から戸口迄のモットーに適はしく盛んに市内を活動して居ります。
・ウーズレーCP型1屯半貨物自動車「日本染繊(株)」
丙種保護自動車に属し一般的な貨物自動車でありますが日本染繊株式会社では特に荷框を深くしまして繊物等の運搬に便利な設計を採られました。三越呉服店へは総箱型が納入してあります。
・ウーズレーCP型1屯半貨物自動車「鉄道省」
鉄道省その他官省に上納した場合は保護自動車の適用は受けませんが、これが民間用ならば丙種に属するのであります。この車は鉄骨鉄板張で非常に丈夫な貨物車であります。
●1924年石川島造船所自動車工場ウーズレーCP型トラック 保存車両
2013年第43回東京モーターショー会場にて。国立科学博物館に保存されていた生産第1号車を1991年(平成3年)にいすゞが譲り受けた車両で現在は藤沢のいすゞプラザに展示。
運転席
●1925年ウーズレーCP型「東京市営バス」の実働写真
戦前の日本で車輪に装着が義務付けられていた泥はね防止器が付いています。
★オマケ(その1): 津川洋行モデルプランニング 1/80スケール いすゞTX41トラック
ウーズレーのミニカーはないため、いすゞ車のミニカーをオマケに。全長9cm。ホワイトメタル製。定価5800円(税抜)。後ろに写っているのは遠藤商店製キハ02限定色。
●この16番スケールの津川製をベースにした極めて秀逸な「PINE CONE PRODUCTS」(アメブロネーム幌歌内様) 製作の日通仕様、トラック、ダンプを配したHOj 1/87スケール軌間12mmの鉄道ジオラマ。日本型鉄道模型の究極の世界という感じがします。
★オマケ(その2): 津川洋行モデルプランニング 1/150スケール いすゞTX日通トラック幌付
全長5cm。ホワイトメタル製。定価は2000円前後?津川のNサイズTX日通はなかなか良い雰囲気です。後ろに写っているのは初期トミックスの香港製キハ02。
★オマケ(その3): トミカ20-?番 2017年1/136スケール いすゞエルガ都営バス
全長7.7cm。ダイキャスト製。定価450円(税抜)。2017年10月21日(土)発売新製品。タンポ印刷ではなく付属のシールを貼りつけて完成させる形ですが、錦糸町駅の行先表示がなかなか良い感じです。
★オマケ(その4): 1950~1960年代の英国ウーズレー乗用車カタログ
今回の記事に際してウーズレーのカタログを探してみたところ戦後BMC時代のバッヂエンジニアリング全盛期のウーズレーのカタログ20部程度が手許にありました。しかし、ウーズレーは日本ではマイナーで人気がなくカタログはヤフオクなどの中古カタログ市場に出てきても入手したいという人もいないのか半世紀以上の時を経ていても安価なのがちょっと可哀相です。
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★1925年 国産ウーズレーCP型バス・トラック ~ 自動車カタログ棚から 363
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