★2015年1月25日(日)、極寒の富士スピードウェーから従来のお台場・船の科学館前に会場を変えた日本クラシックカー協会主催のニューイヤーミーティング2015において、非常に珍しい1953年のオオタ・ライトバンが公開された。
オオタは時代・車種を問わず現存する車両は僅かだが、特に戦後のオオタの現存車両は極めて少なくライトバンに関してはニューイヤーの展示車が唯一と思われる。
今回の「自動車カタログ棚から」は、ニューイヤーミーティングに展示されたオオタ・ライトバンの画像と併せて戦後のオオタ商用車(トラック・ライトバン)をピックアップします。なお、戦後のオオタ乗用車については本シリーズ第87回記事をご参照ください。
★世界の自動車メーカーあるいはブランドの名称は言うまでもなく創業者の名前に由来するものが多い。
ポルシェ、フェラーリ、シトロエン、ルノー、フォード、シボレー、クライスラー、ランボルギーニ、マセラティ、ランチア、オペル、オースチンetc・・・と枚挙にいとまがない。日本の自動車メーカーにおいてもトヨタ(豊田)・ホンダ(本田)、マツダ(松田)・スズキ(鈴木)など創業者の名前に由来するメーカー名は多い。そんな中で20世紀半ばの日本には太田祐雄(1886年-1956年)が創業したオオタという自動車メーカー/ブランドが存在した。
★オオタ自動車のルーツは1912年(明治45年)6月、弱冠26歳で太田祐雄が巣鴨につくった太田工場で小型エンジンの製作を始めたことに遡る。
1921年(大正10年)には965ccエンジンを搭載した小型自動車シャシーを試作、1933年(昭和8年)に至り当時の無免許運転許可車両規定上限の排気量750ccエンジンを搭載した乗用車およびトラックの生産・販売を開始した。1935年(昭和10年)4月3日、オオタが当時のライバルであったダットサンに勝るとも劣らない優れたクルマであると評価した三井物産の資本が入り、その際、社名を「高速機関工業」と改めた。戦前のオオタはダットサンより生産販売台数が1桁少なかったものの祐雄の長男・太田祐一(1913年-1998年)の手によるスタイリッシュな乗用車のデザインは高く評価された。また、多摩川スピードウェーにおける黎明期の国内モータースポーツ界においてもダットサンを凌ぐ活躍をした。
●1954年? オオタ・レーサー
1955年オオタ自動車総合カタログより。スペック等不明。黒澤明監督の映画「七人の侍」が公開された頃に俳優の三船敏郎(1920年-1997年)もこのクルマをドライブしたことがあったようだ。
●1921年(大正10年) オオタ第1号車
1955年オオタ自動車総合カタログより
★戦後のオオタは他社同様に戦前型シャシーに新しいボディを載せる手法で細々と生産を再開した。
1952年(昭和27年)にはオオタ自動車工業と社名を改めたが、1955年(昭和30年)1月、トヨタの初代クラウンRS、日産のダットサン110系のデビューに至り、小資本のオオタでは近代化の波に乗ることが出来ず倒産の危機に陥った。
1957年(昭和32年)にはオート三輪くろがねを製造していた日本内燃機製造に吸収され、両社の合併に伴い社名は日本自動車工業と改められた。オオタはトラックおよびライトバンの生産が細々と続けられたが、翌1958年(昭和33年)をもって戦前からの名門であったオオタの車名は消滅した。オオタ・ブランドの車両が生産・販売されたのは、1933年(昭和8年)から1958年(昭和33年)のちょうど25年間であった。
末期のオオタが生産された日本内燃機~日本自動車工業に在籍していた中村良夫(1918年-1994年)と戦前からオオタレーサーも手掛けてきたオオタ生え抜きの技術者24名は四輪自動車の製造に乗り出そうと画策していた1950年代末の2輪メーカー本田技研に移籍し、1960年代に入りホンダF-1や日本車初のツインカムを搭載したホンダSシリーズ等の四輪車開発に大いに腕を振るうこととなる。今や歴史の闇に消え去りつつあるオオタだが今日のホンダもオオタなくしては生まれ得なかったと言えるのである。
●1948年 オオタセダンPA型と美女
1948年12月25日印刷「モーターファン」1949年1月号より。戦後初期のオオタPAセダンPRカーと美脚美女ダンサー。既に丸66年の時を経ているので、この美女が当時仮に20歳だったとしても現在御存命ならば80代後半となられているだろう。
【主要スペック】 1953年 オオタKC型トラック (1953 OHTA truck Typ.KC)
全長4070mm・全幅1574mm・全高1745mm・ホイールベース2400mm・車重1040kg・水冷直列4気筒SV903cc E9型エンジン・最高出力24ps/4000rpm・最大トルク5.0kgm/2200rpm・変速機4速MT・乗車定員2名(110kg)・最大積載量1000kg・最高速度70 km/h・販売価格:不明(調査中)
●1950年 オオタOSトラック
日本自動車輸出協会「自動車ガイドブック1951年版」(英文)より。1954年に第1回東京モーターショー(全日本自動車ショウ)が開催されるまで日本語の自動車ガイドブックは発行されなかったが、英文の輸出向け国産自動車年鑑は発行されていた。
●1950年 オオタOSトラック
1950年オオタ総合カタログより。全長3442mm・全幅1360mm・WB2100㎜・E8型760cc20psエンジン搭載。
●1950年 オオタVAライトヴァン
1950年オオタ総合カタログより。全長3250mm・全幅1360㎜・WB2100㎜・E8型760cc20psエンジン搭載。車両サイズは360cc時代の軽自動車と大差ない。
●1950年 オオタFA消防自動車
1950年オオタ総合カタログより。全長3800㎜・全幅1400㎜・WB2100㎜・E9型903cc20psエンジン搭載・放水量200ガロン/分・乗車定員7名・車両総重量1560kg。
●1952年 オオタKAトラック 専用カタログ (B5判・2つ折4面)
全長4013㎜・全幅1460㎜・WB2330mm・E-9型903cc23psエンジン搭載・最大積載量800kg。
【中面】
裏面スペック
●1953年 オオタKC型トラック 専用カタログ (A4判・2つ折4面)
全長4070㎜・全幅1574㎜・WB2400㎜・E-9型903cc24psエンジン搭載・最大積載量1000kg。
【中面から】
1953年型より変速機を3速から4速に変更
裏面スペック
●1953年 オオタFA-2型 消防自動車 専用カタログ (B5判2つ折4面)
全長3940㎜・全幅1480㎜・WB2320㎜・E-9B型903cc24psエンジン搭載・最大放水量180ガロン/分・乗車定員8名・車両総重量1610kg。表紙画が何とも味わい深い。
【中面】
裏面スペック
表紙と裏表紙が繋がって1枚の絵となっている。
●1953年 オオタVFライトヴァン
三栄書房モーターファン臨時増刊「自動車ダイジェスト1953年版」より。全長4150㎜・全幅1570㎜・WB2355㎜・E9型903cc24psエンジン搭載・最大積載量850kg。2015年ニューイヤーミーティングで現存車両が公開されたモデル。
●1953年 オオタKAPピックアップ
日本自動車輸出協会「自動車ガイドブック1953年版」(英文)より。WB2355㎜。上掲のVFライトヴァンにスペックは準じる。
●1954年 オオタKC型トラック 専用カタログ (縦21.3×横30.3cm・4つ折8面)
全長4070㎜・全幅1574㎜・WB2400㎜・E-9型903cc26psエンジン搭載。前年よりエンジン出力が若干上げられた。
【中面から】
東京タイムス宣伝車ほか
オオタ・エンブレム
裏面:スペック&図面
●1954年 オオタKD型トラック 専用カタログ (縦22×横30.3cm・4つ折8面)
WB2455㎜・E-13型1263cc45psエンジンを搭載した上位車種。KD型トラック(1500kg積)の他にVK型ピックアップ(600kg積)とVL型ライトバン(850kg積)も掲載されたカタログ。
【中面から】
VL型ライトバンおよびKD型トラック
VK型ピックアップ
裏面:スペック&図面
KD型トラック図面
VL型ライトバン図面
●1955年 オオタFU型キャブオーバートラック
1955年オオタ総合カタログより。カタログにはこの1カットのみの掲載で顔つきが不明だが非常に珍しいオオタ製COE。
●1955年 オオタFM型消防自動車
1955年オオタ総合カタログより。オオタ製消防車はこのFM型が最後。
●1956年 オオタKD型トラック・VL型ライトバン・VK型ピックアップ
1956年オオタ総合カタログより。全長4235~4280mm・全幅1610~1660mm・WB2440mm・E-13型1263cc48psエンジン搭載。エンジン出力が上がった他、外観上はフロントグリルが近代的なデザインとなり、ライトバンとピックアップにはサイドモールが付いた。
●1957年 オオタ・ライトシリーズ 専用カタログ (B5判・3つ折)
E-9型903cc26psエンジンを搭載したスタンダード・グレードは内外観が一新され大幅にモダナイズされた。VQ-1型ライトバン、VN-1型ピックアップ共に全長4m弱・全幅1520㎜・WB2300㎜。
【中面から】
VN-1型ピックアップ
VQ-1型ライトバン
裏面スペック&図面
●1957年 オオタKE型トラック 専用カタログ (A4判・8頁)
全長4293㎜・全幅1670㎜・WB2580㎜。E-13型1263cc48psエンジン搭載車も内外観が一新され一気にモダナイズされた。この時期のオオタは既に乗用車の生産は停止しており、戦前から連綿と使われたホイルキャップ・デザインは「ohta」文字のみのシンプルなものとなった。
【中頁から】
裏面スペック&図面
●1958年 オオタKE型トラック・VM型ライトバン 専用カタログ (A4判・8頁)
1958年4月に発行されたオオタ最後のカタログ。ライトバンがラインナップに加えられた。
【中頁から】
KE型トラック
VM型ライトバン
裏面スペック&図面
★オマケ: 1953年 オオタVFライトヴァン 現存車両画像
2015年1月25日、お台場・船の科学館前で開催された2015ニューイヤーミーティングの展示車両。既に書類もなくナンバーはダミーの不動車だが、車両が潰されずに生き残っていたこと自体が奇跡的と言える。早朝のお台場でキャリアカーから降ろされるところを見て、初めは顔つきが似ていることからトヨペットSGベースのライトバンあたりかと思ったのだが、よく見れば「OHTA」のバッチが各所に付いており予期せぬ幻のオオタの登場に身が震えた。高級車やスポーツカーといった人気があり資産価値が高く時を経ても必ず生き残るような類のクルマではなく、現存数の少ない珍しい商業車を中心とした旧車を絶滅の危機から救い出し蒐集を続けているオーナーは随時トヨタ博物館などにも納車されており、所有することよりも後世に残すことを目的としたコレクションには頭が下がるばかりである。何れはこのオオタも博物館の展示で見られる時が来るかもしれない。
「何だ??」
「トヨペット??」
右後ろだけホイルキャップが残っている。
「オオタだ!!」 左下にOHTAのロゴ
正面
フロントオーナメントおよびエンブレム
七宝焼きのオオタ・エンブレム
運転席
OHTAのレタリングの入った純正ハンドル。オドメーターは85385km。
腕木式アポロ・ウインカー
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★1953年 オオタ トラック/ライトバン 幻の国産車オオタ ~ 自動車カタログ棚から 254
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